自閉スペクトラム症の理解と支援

自閉スペクトラム症は,従来,社会的能力の問題と考えられてきたが,近年の認知心理学研究や当事者研究により,その原因が社会性以前の感覚・運動レベルにある可能性が指摘されている.一般に,人間の脳では感覚器から入力された信号を時空間的に統合することで環境認識や行動決定を行うが,その統合能力が定型発達者と異なることにより,高次の認知機能である社会的能力に問題が生じたり,知覚過敏や知覚鈍麻などの非定型な知覚症状が現れるとする仮説である.

当研究室の長井志江特任准教授らは,東京大学先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎准教授らの研究グループと共同で,自閉スペクトラム症の非定型な知覚症状と社会性の障害の関係を探るため,自閉スペクトラム症の知覚世界を再現することのできるヘッドマウントディスプレイ型知覚体験シミュレータを開発した.知覚過敏や知覚鈍麻として知られる視覚のコントラスト強調や不鮮明化,無彩色化,砂嵐状のノイズといった症状が,環境からの視聴覚信号(明るさや複雑さ,動き,音の強さなど)によって引き起こされる過程を,世界で初めて計算論的に解析・モデル化した (長井ら, 2015).

本研究の成果を応用することで,自閉スペクトラム症の特異な知覚が彼らの社会性の問題にどのような影響を与えているのかを理解し,自閉スペクトラム症者にとって真に有益な支援法を提案することが期待される.詳細は長井志江特任准教授(2017年5月より,情報通信研究機構主任研究員)のホームページを参照.

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