縦の背景

研究

脳機能イメージンググループ

  • 概要
  • 脳機能イメージングのグループは,自他認知発達過程の神経科学的基盤による検証を目的として,神経回路の形成・動作の制御機構の解明に向けた研究に加え,親子間などの複数脳の実時間相互作用の計測を通じて,同調過程や自他認知過程の脳内機構の解明を目指す。その際,計測装置内に導入可能なロボットハンドなども用いて,多様な相互作用を計測する。また,脳発達シミュレーション・心理・行動実験グループに対する検証データの提供ならびに,仮説生成の神経科学的基盤を与える。具体的な計測手段としては,fMRI, EEG, MEGを用いる。特に,MEGに関しては,世界に二カ所しかない,親子二人用の計測装置を用いて,親子間相互作用同時計測の世界で始めての解析を目指す。
    平田 雅之、菊知 充、内藤 栄一、守田 知代、高橋 英之、池田 尊司、浅田 稔
  • fMRIを用いた社会脳ネットワークにおける2つの経路の解明
  • 人間の脳は機能志向型の情報処理をする。最近、我々fMRIチームは、人間の社会脳においても、他者を心の保有者として、その心を積極的に読もうとする経路と、知性のある他者に自分の心が読まれている可能性を察知し、そのリスクを推定する経路があることを明らかにした。被験者が、人間、アンドロイド、ロボット、コンピュータという異なるagentと対戦ゲームをしている最中に、脳活動を計測した。被験者は、個々のagentに対して異なる第一印象を持ち、被験者は、この印象に大きく影響されて、ゲーム中の戦略を変えていた。特に、相手に知性 があり自分の心が読まれていると感じる場合には、ゲームの手を読まれないように頻繁に変える戦略をとっていた。このような相手の印象に大きく影響を受けて 脳活動が変化する経路は、相手が心の保有者か知性のあるものかに依存しており、前者を相手にする場合には、側頭・頭頂接合部(TPJ)から背側へと向かい、cingulumという脳内神経線維の走行に沿った脳内側面を動員して、その心を積極的に読もうとするのに対して、後者を相手にする場合には、TPJから腹側へと向かい側頭極を動員する経路で、知性のある他者に自分の心が読まれている可能性を恐れ、察知することがわかってきた。
    内藤 栄一、守田 知代、高橋 英之
  • MEG/EEGを用いた親子の情報伝達の様相の解明
  • 親から子ども、子どもから親への情報はどのように伝達されているのであろうか?親子が互いに情報をやりとりすることで、親は子どもへの働きかけを模索・学習し、子どもは発達を促されるのである。我々のグループでは、最新鋭の脳機能計測機器を用いて、親子それぞれの脳活動から相互作用の様相を検討する。脳のリズムや活動のタイムコースを詳細に検討する場合には、非侵襲で時間分解能に優れる脳磁図(magnetoencephalogram:MEG)・脳波(electroencephalogram:EEG)が適している。親と子どもの個々の脳で起こっている活動と、親子がペアになることで生じる活動を知ることで、親子の情報伝達の様相を脳活動から解明する。
    平田 雅之、菊知 充、池田 尊司

行動・心理実験グループ

  • 概要
  • 乳幼児はいつ、どのようにして自己に気づき始めるのか。また、自己認知の能力は他者との関わりの中でどのように育まれ、神経機構として記述されるのか。行動心理実験グループでは、工学・心理学・神経科学の手法を融合することで、乳幼児の自他認知の発達メカニズムを明らかにすることを目的とする。第一の課題では、行動学的な視点から乳児の自己認知の起源を探る。視線随伴パラダイムを応用したスクラッチ・イメージ課題を用いて、乳児が自らを意図的な主体として認知するようになるのはいつごろかを評価する。第二の課題では、乳幼児の発達を支援する養育者に注目し、養育者が他者の心をどのように知覚しているのか、そしてそれが彼らの養育行動にどう影響するのかを解明する。多元的 な心の知覚を表現する神経基盤と、その発達的な変容を捉えることで、乳幼児の発達を支援する養育者の役割を明らかにする。 そして第三の課題として、乳幼児と養育者の相互作用のダイナミクスを、工学的手法を用いて解析する。乳幼児がいつどのようにして自他分離から社会的随伴関係を確立しているのか、そして、養育者はいかにしてそれを支援しているのかを、情報理論の指標を用いて定量化する。
    長井 志江、宮崎 美智子、高橋 英之

脳発達シミュレーショングループ

  • 概要
  • 脳発達シミュレーショングループでは、神経細胞レベルのミクロな現象から行動レベルのマクロな現象まで、環境や他者との同期、非同期を行う神経系モデルの構築を行っている。脳機能イメージングの実験によって得られた脳活動の実験結果や、行動計測や心理実験で得られた行動レベルの実験結果を構成論的に説明することを目指し、ボトムアップ、トップダウンの両面からモデル構築を行っている。ボトムアップ的なアプローチとしては、ミクロな神経活動のダイナミクスからマクロな行動の理解を目指して、脳発達の大規模計算機シミュレーションを行っている。一方で、トップダウン的なアプローチとして、実際のロボットプラットフォームでのコミュニケーション実験の実現を目指してマクロレベルのモデルの構築を行っている。
    荻野 正樹、森裕 紀、Matthias Rolf、石原 尚
  • ゴールバブリングを通じた運動学習
  • 成長して変化し続ける数百もの動作自由度がある身体を協調させて動かすために、乳児は日々どのような学習を行っているのだろうか。数えきれないほどの感覚器からの情報のうち、どれが自分の生み出したもので、どれが環境や他者から与えられたものかをどのように識別しているのだろうか。目標を持つことはどのように感覚と運動の発達を促し、また目標それ自体はどのように発達してくるのだろうか。我々は、新生児の動きにみられる目標に向かおうとする初期的な運動を模倣した手法であるゴールバブリングに基づいた運動学習手法を開発することを通じて、概念レベル、アルゴリズムレベル、理論レベルで一貫して上記の問いに答えることを目指す。このような取り組みにより、乳児発達メカニズムの仮説の検証に寄与するだけでなく、工学的な実用上でも有効な学習アルゴリズムの構築も行えることを期待している。
    Matthias Rolf
  • 情動制御を目標とした乳児の愛着行動変遷の計算機シミュレーション
  • 乳児と養育者の間の愛着の絆はどのように形成されているのだろうか。多くの発達の縦断的観察研究を通じて、乳児自身の気質的要因だけでなく、養育者の関わり方の影響の重大さが指摘されているものの、多くの要因が絡むために概念レベルでの説明しかなされていない。そこで我々は、「乳児が養育者に向ける愛着行動の変容は、乳児自身の情動制御のための最適行動学習の結果として現れる」との仮説の下、情動制御に関わる乳児の脳機能システムのシミュレータと、乳児の情動制御に関わろうとする養育者のシミュレータを作成し、両者の情動的関わりを通じて愛着行動が変容していくメカニズムをアルゴリズムのレベルで理解することを目指す。愛着形成メカニズムの理解の進展は、愛着障害の予防や改善だけでなく、人と情動的な繋がりを形成していけるロボットの設計論の確立にも役立つと期待している。
    石原 尚

ロボットプラットフォーム開発グループ

  • 概要
  • ロボットは仮想的な脳シミュレーションと現実の環境とを仲介可能なインターフェースであり、適切にデザインが行われていれば発達メカニズムの仮説をテストするのに適したツールになりうる。我々のグループでは、脳発達シミュレーションモデルを実装して実世界と相互作用させた場合にどのように発達が起こるかを確かめるプラットフォームとして、また脳計測実験や行動・心理実験中の相互作用の相手として用いることのできるロボットの実現を目指し、「相互作用のための柔らかさ」をキーワードに同時並行的にロボットの開発を進めていく。
    細田 耕、成岡 健一、石原 尚、遠藤 信綱、森 裕紀
  • 筋骨格赤ちゃんロボットPneubornの開発
  • 重力や床反力の存在する物理環境の中で、複雑で冗長な筋骨格系をいかに協調して働かせることでハイハイのような移動運動という発達的目標が達成されるのかを調べる上では、精緻に動作するロボットよりも、むしろバネのように柔らかい動作をするロボットが望ましい。赤ちゃん型ロボットPneubornは、機械的柔軟性を持つ直動型アクチュエータである空気圧人工筋によって駆動され、単関節筋のみならず複数の関節を跨ぐ多関節筋構造も再現されている。脊椎や柔軟皮膚など、環境との相互作用のダイナミクスを変えうる身体構造要素を順次導入し、動作実験を通じて各要素の影響を把握しながら環境との密な物理的相互作用の中での運動発達の理解という課題に挑戦中である。
    成岡 健一、細田 耕
  • 写実型柔軟子供ロボットAffettoの開発
  • Affettoは、行動・心理実験グループにおいて実施される人との接触を伴う実験に用いることを想定し、接触に対して柔らかく動作しつつも、できるだけ実際の子供に近い印象を与えられることを目指して開発中のロボットである。20か月程度の子供に近い身体寸法と重量であり、写実的で柔らかい皮膚や人に近い形状の内部骨格などを備えている。静かでしなやかな動作をするよう、顔面部以外の関節は空気圧で駆動する方式を採っている。小型ながら首を含めた上半身に22の自由度があり、多様な姿勢をとらせることができる。さらにオーバーヒートなしに長時間負荷のかかる動作を行わせることができるため、安定した動作の保障が難しい脳発達シミュレーションを実装した動作実験にも適している。より安定した動作のための空気圧のダイナミクスを考慮した制御器の開発も今後の重要な研究対象であるが、柔軟性、耐久性、写実性を生かした取り組みを重視して進めていく予定である。
    石原 尚
  • 子供様発話ロボットの開発
  • 子供に対する親の発話には抑揚の強調や母音の明瞭化などの特徴が現れるが、なぜ、どのようにしてこのような対子供向け発話が引き出されるのだろうか。子供に対する親の発話方略は、発話に対する子供の反応の有無に応じて変わることや、対動物あるいは対外国人向け発話の特徴と一部重複するものの完全には一致しないことが実験的に見出されており、単に本能的なものでなく、相互作用の中で何らかの要素をきっかけとして引き出されているものと考えられる。我々は、対子供向け発話を引き出すことのできる人工物を実現しようとする試みによってその要素を突き止めることを目指す。その一環として、子供様の音声をなるべく実際の音声の生成に近いやり方で生成可能な人工発声ロボット、すなわち、空気を送ると子供のような高いピッチの音源を生成する人工声帯と、形状の変形により音源を様々な音声に調整する小型の人工声道から成る人工調音器官の開発に取り組んでいる。開発したロボットを用いた心理・行動実験を通じてロボットの評価を行っていく予定である。
    笹本 勇輝、遠藤 信綱、石原 尚
  • 空気圧人工筋マスタスレーブハンド
  • マスタ・スレーブ型遠隔操作ロボットシステムにおいて、操作するマスタはヒトと接触し、操作されるスレーブは環境と接触する。したがって、ロボットはヒトあるいは環境と柔軟に相互作用する必要がある。空気圧人工筋は圧縮空気による高い柔軟性や高出力重量比といった特長を有し、電動モータのようなアクチュエータで解決が難しいとされる環境やヒトとの物理的な接触の問題が生じるさまざまな場面で用いられてきた。しかしながら、圧縮空気の特性やゴムチューブとスリーブとの摩擦が原因で、長さや力の精緻な制御が難しい。そこで、空気圧人工筋で駆動されるマスタ・スレーブ遠隔操作ロボットシステムのための制御手法を提案した。その制御手法の有用性を検証するため、空気圧人工筋の特性を活かすマスタ・スレーブシステムとして、ヒトの手に装着可能な外骨格による遠隔操作ロボットシステムを開発してきた。今後システムの評価を進めていく予定である。
    成岡 健一、細田 耕